【資産安心コラム】2ページ 株保有者が海外に転出する場合は日本版出国税に注意しよう!
中小企業経営者の井浦正樹さん、治子さん夫妻は、長男・直樹さんに社長業も譲り、今年に入ってから相続対策を始めようと決めました。まずは直樹さんと次男・良樹さんへの自社株の贈与を考えたのですが、顧問税理士から「待った」がかかりました。それは、良樹さんがアメリカ在住だからです。
2015年7月1日から「国外転出時課税制度」(出国税)の適用が開始されました。国内に居住していた人が海外に転出する(非居住者になる)場合、株式やその他の有価証券、未決済のデリバティブ取引といった金融資産に対し、転出時に譲渡・決済したものとみなして含み益に課税するという制度です。出国税の課税対象とされる資産・規模が、出国時に時価1億円を超える有価証券等の場合、銘柄に関係なく課税されます。株式売却予定のないまま出国する場合ならば、海外赴任や留学といった一時的な出国でも、一律に一旦は所得税の確定申告等をする必要があります。国外転出時課税制度は未実現のキャピタルゲイン(売買差益)に対する一律課税です。そのため、納税猶予制度や税額の減免措置(減額措置等)も用意されています。出国時に相応の担保を提供し、納税管理人の指定を条件として、出国税課税の対象とされた事業所得、譲渡所得あるいは雑所得に係る所得税の納税が、キャピタルゲインが実現する資産の実際売却時まで、または出国から5年間(さらに5年間延長可で10年まで)猶予されます。出国期間中に対象資産が実際に譲渡された場合、納税猶予の期限が到来し、納税義務が発生します。また、納税猶予期間中は、対象資産の保有状況に関する届出書を毎年提出する義務があります。
海外在住の親族に株式を贈与しても適用される
出国時のみならず、非居住者への相続、贈与の場合も要注意です。今回の事例では、次男・良樹さんへの自社株の贈与がこれに該当します。国内に5年超居住していた被相続人(贈与者)が、1億円以上の対象資産を保有していた場合、非居住者である親族等に対象資産を遺贈もしくは贈与すると、贈与者、被相続人に対し、出国税課税と同様、未実現のキャピタルゲインについて、所得税(事業所得の金額、譲渡所得の金額または雑所得)が課税されます。この場合も国外転出時課税と同様に納税猶予制度を受けられます。自社株を含めてもちろん1億円以上の株式資産を持つ正樹さんは、110万円ずつ暦年贈与をしようと計画していました。しかし、海外に居住する次男への株式の移転は、即譲渡所得が課税されると聞き、顧問税理士に本格的な相続対策をお願いすることにしました。
相続・贈与について気になることがあれば、お気軽にご相談ください。
※記事内の名前はすべて仮名。設定は実話に基づき一部脚色しています。
[POINT]
- 海外へ移住、赴任、留学等で一時出国する際、金融資産を譲渡・決済したものとみなして含み益に課税される
-
- 海外に住む親族に贈与・遺贈すると、贈与者、被相続人に対して所得税が課税される
記事提供:相続・贈与相談センター本部税理士法人エクラコンサルティング