【資産安心コラム】2ページ 留学や仕事で海外にいる子供に自社株を贈与したら贈与税と所得税が二重にかかる?
前号で贈与、相続または遺贈による非居住者に対する対象資産の移転にも国外転出時課税があることについて触れました。国内に5年超居住していた1億円以上の株式等を保有する個人の場合、本人が国外へ出国しなくても、対象資産を非居住者へ贈与もしくは遺贈(相続)した場合、贈与税もしくは相続税の対象となるのは、株式を売却したとみなして所得税が課税されるという制度です。つまり、贈与(相続)税と所得税の二重課税となるのです。
中小企業経営者の宮村隼人さんは自社株と他の有価証券と合わせて、評価額で1億円以上保有しています。海外でビジネスをしている息子の文紀さんに、自社株を贈与したらどうなるでしょう?国外居住の文紀さんが贈与税を払うのは当然として、国内に居住している隼人さんも、贈与時に時価で売却したものとみなして、含み益の15.315%(所得税と復興税)を申告しなければなりません。ただし住民税5%分は、国外に出国した場合と同様に課税されません。では、もし隼人さんが亡くなり、国外居住の文紀さんが株式資産を相続したらどうなるのでしょう。相続税に加えて、被相続人である隼人さんが時価で売却したとみなして、含み益の15.315%に所得税が課税されます。死亡時から4ヵ月以内に、準確定申告と(もし納税猶予の特例を受けるのなら)納税猶予手続きを行わなければなりません。ただし準確定申告で課税される譲渡所得税は、被相続人(隼人さん)の未払い税金となり、相続税の計算上では債務として相続財産から控除されます。また、対象資産が未上場株式の場合、所得税の評価額は「所得税法上の時価」、つまり相続・贈与税の評価額よりも高くなることが想定されます。なお、対象となる資産は、自社株だけでなく、国債や上場株式等の有価証券の価格の合計が1億円以上の場合です。
納税猶予の手続きは煩雑
納税猶予の手続きは煩雑です。準確定申告の提出期限までに、猶予される所得税額+利子税額に相当する担保を提供する必要があります。担保提供できる資産は以下の通り。
・不動産
・国債・地方債
・税務署長が確実と認める有価証券
・税務署長が確実と認める保証人の保証など
確定申告書提出後も、納税猶予期間中は翌年3月15日までに継続提供届出書を提出しなければなりません。納税猶予期間中に株式を譲渡、決済、または贈与した場合は、その日から4ヵ月以内に利子税と合わせて所得税を納付します。国外転出時よりも株式の価格が下落している場合は、所得税の再計算をします。株式を保有する非居住者(この場合文紀さん)が当対象資産を未売却のまま帰国した場合、帰国してから4ヵ月以内に課税の取り消し(更正の請求)をする必要があります。相続は贈与と違い、いつ起こるかわかりません。子供が海外にいる中小企業オーナーの方は、事前に納税準備等の対策をしておきましょう。
相続・贈与について気になることがあれば、お気軽にご相談ください。
※記事内の名前はすべて仮名。設定は実話に基づき一部脚色しています。
[POINT]
- 自社株をはじめ、有価証券を評価額ベースで1億円以上保有していて、海外に住む親族がいる場合は要注意
- 海外に居住する親族に自社株を贈与すると、贈与税と所得税が二重課税される
記事提供:相続・贈与相談センター本部 税理士法人エクラコンサルティング