【資産安心コラム】2ページ 贈与税に時効はある?〈前編〉 32億円が課税されずに 「負債3兄弟」へ流れた!

贈与税に時効はあるのでしょうか。実は申告期限から6年(偽りその他不正があった場合は7年)を、贈与税の時効としています。今回と次回で、贈与税の時効により課税にならなかった事例と、時効が認められなかった事例を紹介します。

加藤虎雄さんは製造業のワンマンオーナー。晴一さん、銀二さん、正三さんという3人の息子がいて、それぞれ会社の役員に就いていました。

この兄弟は3人とも、次のように株式投資に失敗しました。

・晴一さん…昭和63年、会社から2億円を借りて投資するも失敗

・銀二さん…平成2年、会社から10億円を借りて投資するも失敗

・正三さん…平成2年、株式投資に失敗し、20億円の負債が発生

会社としては、役員貸付金が不良債権化して大問題です。そこで虎雄さんは、3人に対してそれぞれ「出してやれ」と、会社の経理担当に指示。合計32億円もの資金が3兄弟に渡りました。この際、贈与契約書や金銭消費貸借契約証書等の書類は作成していません。贈与税の申告もなし。虎雄さんは3兄弟に返還請求もしないまま年月が経過していきました。

平成8年、虎雄さんが死去。この32億円か相続税の税務調査で問題になりました。

晴一さん、銀二さん、正三さんの3兄弟は「贈与契約書もなく、贈与税の申告もしていないけれど、父から『返せ』と言われたことは、一度もない。32億円は事実贈与だ」と言い、相続税の課税対象ではないと主張。さらに、贈与税の時効が過ぎているので、贈与税を払う必要がないと主張しました。

対する税務署の主張は次の通り。

・虎雄さんが救済したかったのは、3兄弟ではなく、取引銀行から返済を迫られた会社であり、32億円は返済資金として渡した

・贈与契約書がないので、「贈与の合意はない」と考えられる

・32億円は贈与ではなく、返済のための立替金(貸付金)である

・虎雄さんは、自分の死亡時に「3兄弟への立替金を免除する」という意図だったのだから、立替金を免除するという死因贈与契約である

・32億円は死因贈与契約により、相続税の課税対象となる

「贈与でなく死因贈与ならば、遺言による遺贈と同様、相続税の課税対象になる」。税務署はこの理屈を頼りに、32億円に対して相続税の課税処分を行いました。

一方、32億円は確実に3兄弟の口座に振り込まれ、虎雄さんの存命中に3兄弟が「自分のお金」として確実に管理して、借入金の返済に充当したのです。

【「贈与税の申告をしない」ことは「贈与がない」ことにはならない】

平成17年、地裁は次のように判決を下し、「32億円は贈与」と認められました。

・32億円を渡したとき、虎雄さんは経理担当者に「出してやれ」と言ったが、贈与に該当するかは不明確

・経理担当者も3兄弟も、「出してやれ」は贈与の趣旨と理解した

・3兄弟は返還を求められたことがなく、返還能力もないので、立替金とは言えない。

・「贈与税の申告をしない」ことは「贈与がない」ことにはならない。よって32億円は贈与である

晴一さん、銀二さん、正三さんの主張が通り、32億円はまったく課税されずに、親から子へと流れたのでした。

相続・贈与について気になることがあれば、お気軽にご相談ください。

※記事内の名前はすべて仮名。設定は実話に基づき一部脚色しています。

[POINT]

贈与契約書や贈与税申告のない贈与は、後にトラブルに発展する

死因贈与契約は口頭でも可能だが、公正証書を作成するほうが安全