【資産安心コラム】2ページ 贈与税に時効はある?〈後編〉公正証書で贈与契約書を作成した 贈与税の時効が認められなかった!

贈与税に時効はあるのでしょうか。実は申告期限から6年(偽りその他不正があった場合は7年)を、贈与税の時効としています。今回は、公正証書で贈与契約書を作成した贈与税の時効が認められなかった事例を紹介します。

上杉実さんは昭和60(1985)年3月に土地115坪と建物について、息子の正幸さんに贈与しました。公正証書にて贈与契約書を作成し、引き渡しを完了。しかし、贈与税の申告と贈与登記は行いませんでした。

贈与登記を行ったのは、贈与契約から8年後の平成5(1993)年12月。この時点で贈与税の時効を過ぎていました。

税務署から指摘を受けた上杉さん親子。「贈与による財産の取得時期は、書面によるものについてはその効力発生時、書面によらないものについてはその履行時である」と通達にあることを引き合いに出し、「公正証書は信用力があり、書面による贈与であることから、土地と建物は昭和60年の贈与による財産取得にあたるので、当然時効」と主張し、税務署と闘うことにしました。

一方、税務署は「贈与は昭和60年ではなく、登記日である平成5年12月であって、時効にはかからない」と見解し、登記時の平成5年の路線価で贈与税の課税処分を行おうとしました。なお、この場合、贈与税本税が1億1,000万円と加算税がかかります。

【昭和60年と平成5年の路線価の違いが生んだ悲劇】

結果として地裁の判決は、次のような内容でした。

「本件公正証書は贈与税の負担がかからないようにするためにのみ作成されたものであり、従って本件公正証書(昭和60年)に贈与がなされたものではない。そうすると本件不動産を贈与したのは書面によらない贈与によるものということになるが、書面によらない贈与の場合はその履行時(平成5年)に贈与による財産取得があったと見るべきである」

上杉家は最高裁まで闘いましたが、主張は通りませんでした。

ダメージは、時効が認められないだけではありません。支払うべき贈与税の金額が甚大になってしまったのです。

平成5年といえば、バブル崩壊直後にあたり、路線価水準はほぼ史上ピークの状態でした。贈与税1億1,000万円とは、そんなバブル路線価で課税されたもの。贈与契約書を交わした昭和60年の路線価であれば、まだバブル以前なので、贈与税は平成5年の何分の1程度で済んだと推測されます。

現在の当該土地の路線価評価額は6,000万~7,000万円。加算税を含めて2倍もの贈与税を、正幸さんは支払うことになったのです。「1億円以上も支払うはめになるのだったら、贈与契約書で贈与を行ったときに、申告をしておけばよかった」。正幸さんは悔恨の念にかられています。

相続・贈与について気になることがあれば、お気軽にご相談ください。

※記事内の名前はすべて仮名。設定は実話に基づき一部脚色しています。

[POINT]

贈与契約が公正証書で成されても、贈与登記にタイムラグがあるとトラブルが起きる

贈与税の時効を主張する場合は、認められないリスクも考えよう

記事提供:相続・贈与相談センター本部 税理士法人エクラコンサルティング