【資産安心コラム】2ページ 「相続放棄」せず「相続分の放棄」をしたばっかりに連帯保証債務を相続することに!前編

東京・下町で町工場を経営していた安井幸吉さんが亡くなり、相続が発生しました。妻の妙子さんは3年前に死去。長男の龍太さんと長女の冴子さんがいます。龍太さんは妻・すみれさんとともに幸吉さんと同居しており、すみれさんが幸吉さんの介護をしていました。幸吉さんの資産は、自宅兼工場の不動産(評価額5,000万円)と約200万円の預貯金のみで、借入金はありません。
 幸吉さんの相続での相続人は、龍太さんと冴子さんの兄妹。遺産分割協議も、この2人で行われました。協議の結果、自宅兼工場の不動産は龍太さんが引き継ぐことに。冴子さんは「私は何もいらない。相続を放棄するので、はんこ代だけもらっておく」と預貯金を100万円のみ相続することになりました。相続開始から5ヵ月経過したころに、2人は遺産分割協議書に押印しました。
 遺産分割協議が終わって1ヵ月後(相続開始から6ヵ月後)になって、金融業者から「幸吉さんは知人の連帯保証人となっており、連帯保証債務が2,000万円ある」という通知が来ました。龍太さんと冴子さんは驚くばかりでした。
 実は幸吉さんは生前、地域の町工場経営者仲間・堀尾正志さんの、設備投資のための借入の連帯保証人になっていました。堀尾さんは1年前に死亡。工場は後継者もいなく廃業しました。堀尾さんの相続人は、全員相続放棄したため、堀尾さんの債務が連帯保証人である幸吉さんに回ってきたのです。龍太さんも冴子さんも、幸吉さんの連帯保証の事実を全然知りませんでした。この場合、龍太さんと冴子さんが1,000万円ずつ保証債務を相続することになります。

相続開始3ヵ月前ならば「相続放棄」ができた

「私は相続を放棄したから、関係ないわ」と、冴子さんは言い放ちました。しかし、冴子さんが選んだのは「相続分の放棄」で「相続放棄」ではありません。この場合、幸吉さんの相続開始から3ヵ月以内に冴子さんが「相続放棄」の手続きを取れば、相続人とならず、財産を相続しない代わりに連帯保証債務も相続しなくて済みました。ところが、相続開始から6ヵ月後に現金100万円だけを相続したばっかりに、冴子さんは1,000万円の保証債務を背負うことになってしまうのです。(後編へ続く)
 相続・贈与について気になることがあれば、お気軽にご相談ください。

POINT
● 連帯保証債務があるときは、必ずその存在を相続人になる家族に知らせておこう
●「 相続放棄」は原則として、相続開始のあったことを知った日から3ヵ月以内に家庭裁判所に申し出る必要がある
記事提供:相続・贈与相談センター本部
税理士法人エクラコンサルティング
※記事内の名前はすべて仮名。設定は実話に基づき一部脚色しています。