【資産安心コラム】2ページ 「相続放棄」せず「相続分の放棄」をしたばっかりに連帯保証債務を相続することに!後編
東京・下町で町工場を経営していた安井幸吉さんが亡くなり、相続が発生しました。資産は、自宅兼工場の不動産(評価額5,000万円)と約200万円の預貯金のみで、借入金はありません。相続人は長男の龍太さんと長女の冴子さんがいます。協議の結果、自宅兼工場は龍太さんが引き継ぐことに。冴子さんは相続分を放棄し、預貯金を100万円のみ相続することになりました。
遺産分割協議が終わって1ヵ月後(相続開始から6ヵ月後)になって、幸吉さんが知人の連帯保証人となっており、2,000万円の連帯保証債務があることが判明しました。この場合、龍太さんと冴子さんが1,000万円ずつ保証債務を相続することになります。冴子さんは100万円を相続したばっかりに、保証債務を背負うことになったのです。
連帯保証債務があるときは必ず相続人に知らせておくこと
納得がいかない冴子さんは、弁護士に相談しました。弁護士は「家庭裁判所が認めるかわかりませんが、『保証の存在を知ってから3ヵ月以内なので、相続放棄の申請を受理してください』という旨の上申書を出すように」と勧めました。しかし、この上申書が家裁に受理されたとしても、金融業者から「受理は無効だ」と訴えられる可能性がゼロではなく、完全解決にはなりません。
今回のポイントは2点あります。まず、幸吉さんは生前に連帯保証債務の存在を龍太さんと冴子さんに遺言等で知らせ、冴子さんに相続放棄するよう伝えておくべきでした。冴子さんを受取人にした一時払い生命保険に加入しておけば、相続放棄した冴子さんでも、保険金を受け取れたのです。
もう一点は、冴子さんは「相続分の放棄」ではなく「相続放棄」をすべきでした。相続放棄とは、相続人が被相続人から受け継ぐべき全遺産(財産と負債)を放棄することを指します。また、相続財産に対して、負債の方が多いかどうか不明な場合には、相続分がマイナスにならない程度に遺産を相続する「限定承認」という方法があります。相続開始を知った日から3ヵ月以内に相続放棄や限定承認を行わない場合は、単純承認とみなされ、遺産のすべてを引き継ぐことになります。
一方、今回冴子さんが行った「相続分の放棄」とは、相続財産の大部分を遺産分割で放棄しただけに過ぎません。相続債務の負担を免れるものではないので注意しましょう。
相続・贈与について気になることがあれば、お気軽にご相談ください。
POINT
●「 相続放棄」と「相続分の放棄」は意味合いが大きく違う
●「 相続分の放棄」とは、相続財産の承継を放棄する意思表示に過ぎず、相続債務の負担を免れるものではない