【資産安心コラム】2ページ 債権者と税務署の両方が怖い! 「債務免除」をめぐる「二枚舌」が招いた悲劇 後編

 中村勇さんは会社を創業し、隆盛を極めました。しかし、1990年代後半から陰りが見え、会社は破たんしました。後継者の次男・政春さんは多額の借入をしていましたが、返済のために2001年に東京の自宅を担保に銀行から借り入れました。2004年に自宅を12億円(政春さん所有分と父・勇さん所有分が各6億円)で売却し、借入金を返済。政春さんにとっては勇さんへの6億円の債務が残ったのです。
 ここで政春さんは、2004年に公正証書で死去直前の勇さんから債権放棄を受けました。税務上では、勇さんから政春さんへ6億円贈与したことになり、政春さんは贈与税を支払わなければなりません。しかし、相続後も母に対して6億円に対する利子の送金を続け、贈与を受けなかったことを装っていました。

債務免除を受けても地獄受けなくても地獄

 勇さんが創業した会社は、金融機関から多額の債権放棄を受けていました。勇さんは個人資産を供出し、保証債務を負っていたことから、政春さんは相続放棄をしました。
 もし政春さんが債務免除を受けなければ、勇さんからの6億円の貸付金は相続財産になります。相続財産の存在を知った債権者は、たとえ相続放棄していようとも政春さんに請求の目を向けてきます。政春さんは請求を免れるため、勇さんの債権放棄書が必要だったのです。
 債権者も税務署も怖い政春さんは、苦肉の策で二枚舌を使いました。勇さんの相続直前で債権放棄公正証書を作成。債権者に対しては債務免除を伝えて債権の取り立てから逃れ、税務署に対しては債務免除を伝えず贈与税から逃れたのです。
 しかし、国税と検察に、政春さんの債務免除をめぐる二枚舌の事実が発覚してしまいました。
 政春さんは贈与税約2億7,000万円を脱税したとして、相続税法違反罪に問われたのです。あたかも借入金の返済を続けているような仮装隠ぺいなどせず、贈与税を納付していれば、問題はなかったでしょう。
 相続・贈与について気になることがあれば、お気軽にご相談ください。

POINT
● 借入金を債務免除すると贈与とみなされ、贈与税がかかる
● 公正証書で債務免除を受けながら、債務があるように装うと、税務署から悪質な贈与税回避のための仮装隠ぺいとみなされることがある