遺産分割の法制審議会試案「住居を除外。配偶者保護」(平成29年7月18日)
民法の相続分家の見直しを進めている法制審議会(法相の諮問機関)の民法部会は、平成29年7月18日、配偶者がより多くの遺産を相続できるよう(住み慣れた住まいを失わないよう)、結婚して20年以上の配偶者に生前贈与や遺言で贈られた住まいは、原則として遺産分割の計算の対象から除外するなどとした案をまとめました。
法務大臣の諮問機関である法制審議会の民法部会は、平成28年、家事や介護を担ってきた配偶者がより多くの遺産を相続できるよう、配偶者の法定相続の割合を引き上げる(2分の1から3分の2に上げる)などとした案をまとめましたが、一般から多くの反対意見が寄せられたため、改めて検討を進めてきました。
そして、平成29年7月18日の会合で新たな案をまとめ、結婚して20年以上の配偶者に生前贈与や遺言で贈られた住まいは、原則として子や孫らとの遺産分割の計算の対象から除外するとしています。
民法部会は、こうした措置によって、資産価値の高い住まいを取得した配偶者が、現金などの遺産を受け取れず、生活に困るケースを防げるとしています。
また、新たな案には、配偶者が生活費などを確保できるよう、遺産分割の前であっても、預貯金などから一定の払い戻しを受けられるようにすることも盛り込まれています。
法務省は、平成29年8月上旬から約1カ月半、パブリックコメント(意見公募)を実施します。
公募の結果を踏まえ、年内にも要綱案をとりまとめ、来年の通常国会で民法改正案の提出を目指しています。
以下、詳細、ご説明します。
現行の遺産分割のルール
遺産分割とは、亡くなった被相続人が保有していた現預金、有価証券、不動産などの遺産を相続人で分ける制度です。
民法は遺産を相続する際の法定相続割合を規定しています。
被相続人に遺言がない場合に適用されます。
例えば、夫が亡くなり、配偶者の妻と子ども2人が相続人の場合、妻が2分の1を相続し、残り2分の1を子どもの人数で分けます(子どもは4分の1ずつ)。
相続の対象となるのは、現預金、株券などの有価証券、自動車や美術品などの動産、建物や土地などの不動産があります。
遺産分割の方法は、土地は配偶者、建物は長男、預貯金は次男などのように現物のまま相続する方法(現物分割)のほか、財産をすべて売却して金銭を相続分に応じて配分したり(換価分割)、土地などを複数の相続人の共有財産で相続したりするなどの方法があります。
現行遺産分割の課題。配偶者が住まいを失う可能性
現行の制度では、居住用の土地・建物は遺産分割の対象となります。
亡くなった被相続人が遺言で住居は遺産にしないなどと意思表示しなければ、生前贈与をしていても相続人で住居を含めて分け合わなければなりません。
この点、亡くなった夫の遺産が夫婦で居住していた土地と建物が大半で、あとは僅かな預貯金の場合、住居以外の財産が少なければ、残された配偶者が遺産分割のために住居の売却を迫られ、住み慣れた住まいを失う恐れがあります。
例えば、次のようなケースで考えてみましょう。
夫が亡くなり、妻と子ども2人(長男、次男)が相続。
遺産は、夫婦が住んでいた住居(土地・建物)が4000万円、預貯金が2000万円とします。
この場合、遺産総額は6000万円で、妻(2分の1)3000万円、長男(4分の1)1500万円、次男(4分の1)1500万円となります。
そうすると、預貯金は2000万円しかありませんので、長男1500万円、次男1500万円の合計3000万円の相続をさせるために、場合によっては、妻が住み慣れた家を売却して、現金を捻出する必要が生じることも考えられます。
不動産と同程度の預貯金があれば配偶者と子どもで財産を分けやすいですが、上記のとおり、相続対象の大半を家と土地が占める場合、その家に住む配偶者と、独立して暮らす子どもとの間でどう財産を分けるかに苦慮する場合があります。
高齢化の進展で同様の問題はさらに増える見通しで、法制審議会は対応策を検討していました。
遺産分割から住居を除外。配偶者の相続、増加。
そこで、法制審議会の試案では、居住用の土地・建物を配偶者に贈与した際に、それ以外の遺産を相続人で分け合う内容としています。
これにより配偶者は住居を離れる必要がないだけでなく、他の財産の配分が増えて生活が安定します。
例えば、次のようなケースで考えてみましょう。
夫が亡くなり、妻と子ども2人(長男、次男)が相続。
遺産は、夫婦が住んでいた住居(土地・建物)が2000万円、預貯金が4000万円とします。
現行では、遺産総額は6000万円で、妻(2分の1)3000万円、長男(4分の1)1500万円、次男(4分の1)1500万円となります。
したがって、
・妻は、住居2000万円と預貯金1000万円
・長男は、預貯金1500万円
・次男は、預貯金1500万円
となります。
これに対して、
法制審議会の試案では、遺産総額は4000万円で(住居を除く)、妻(2分の1)2000万円、長男(4分の1)1000万円、次男(4分の1)1000万円となります。
したがって、
・妻は、住居2000万円(遺産分割の対象外)と預貯金2000万円
・長男は、預貯金1000万円
・次男は、預貯金1000万円
となります。
但し、法制審議会の試案では、適用する条件として、
・ 夫婦の婚姻期間が20年以上
・ 配偶者に住居を生前贈与するか遺言で贈与の意思を示す
こととしています。
したがって、婚姻期間が20年未満の夫婦や、意思表示がなく被相続人が亡くなった場合は、対象外となります。
上記のほか、今回の試案には、遺産分割の協議中でも預貯金を葬儀費用や生活費用に充てる仮払いを認める制度の創設も盛り込まれています。
法制審議会部会案のポイント
・ 婚姻関係が20年以上の夫婦の場合、配偶者が生前贈与や遺言で与えられた住居は、相続人が遺産分割で取り分を計算する際の対象から除外。
・ 故人が残した預貯金は、相続人が遺産分割する前でも、一定の仮払いを受けられる制度を創設。
・ 2018年1月頃までに要綱案を作成、同年の通常国会に民法改正案を提出。
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