相続で配偶者に居住権 法制審要綱案(2018年1月16日)

法務省は、2018年1月16日、死亡した人の遺産分割で、残された配偶者の保護を強化する民法改正案を22日召集の通常国会に提出する方針を固めました。民法改正相続

配偶者が相続開始時に居住していた建物に住み続ける権利(配偶者居住権)の新設や、婚姻期間が長期間の場合に配偶者が生前贈与や遺言で譲り受けた住居は原則として遺産分割の計算対象とみなさないようにすることなどが主な内容です。

高齢化を受け、配偶者の老後の経済的安定を図る目的です。

相続法制の見直しを検討している法制審議会(法相の諮問機関)の部会が1月16日、民法改正案の要綱案を取りまとめました。

2月の法制審総会での上川陽子法相への答申を経て、政府は1月22日召集の通常国会に民法改正案など関連法案を提出する方針です。

民法の相続分野の大幅な見直しは、1980年以来、約40年ぶりとなります。

以下、主な内容を説明します。

配偶者の居住の保護

新制度は、遺産分割の選択肢として、配偶者はそれまでの住居に住み続けられる「配偶者居住権」を新設します。

住居の所有権を長男など配偶者以外が持っても、配偶者は居住権を得られます。

特に期間を決めなければ、配偶者は自身が亡くなるまで住めます。

新設する居住権は、原則、亡くなるまで行使でき、譲渡や売買はできません。

その評価額は、平均余命などを基に算出され、配偶者が高齢であるほど安くなることが想定されます。

現行法でも配偶者が建物の所有権を得て住み続けることができますが、建物の評価額が高額の場合、預貯金など他の相続財産を十分に取得できなくなり生活が苦しくなる恐れが指摘されてきました。

配偶者が居住権を得ることを選択すれば、他の財産の取り分が実質的に増えると見込まれます。

所有権ではなく居住権であれば売却する権利がない分、評価額は小さくなりますが、預貯金などの財産は多く受け取れるようになります。

遺産分割の対象

現行法では、生前贈与などがされた住居は、被相続人が遺言などで「住居は遺産に含まない」といった意思表示をしていなければ、遺産分割の計算対象となります。

そのため、要綱案は、婚姻期間が20年以上であれば、配偶者が生前贈与などで得た住居は「遺産とみなさない」という意思表示があったと推定する規定を民法に加えることとしました。

婚姻期間が20年以上の夫婦であれば、配偶者に住居を生前贈与するか遺言で贈与の意思を示せば、その住居は遺産分割の対象から外れます。

現預金や不動産などの財産を相続人で分ける際に、配偶者の取り分は実質的に増えます。

これまでは住居以外の財産が少なければ、配偶者が遺産分割のために住居の売却を迫られることもありました。

遺言の保管

生前に被相続人が書く自筆証書遺言は、自宅で保管するか金融機関や弁護士に預けてきましたが、被相続人の死後に所在不明になるなどの恐れがありました。

そこで、公的機関である全国の法務局で保管できるようにして、相続人が遺言があるかを簡単に調べられるようにします。

法務局に預けた場合は、家庭裁判所で相続人が立ち会って内容確認する「検認」の手続きを不要にします。

また、財産の一覧を示す財産目録はこれまで自筆に限定していたが、パソコンでの作成を可能にし、利便性を高めます。

相続人以外の貢献

相続人以外の被相続人の親族(相続人の妻など)が被相続人の介護を行った場合、一定の要件を満たせば相続人に金銭請求できるようにします。

民法改正(相続)の要綱案の主なポイント

・ 配偶者の居住の保護

配偶者が相続開始時に居住している被相続人所有の建物に住み続けることができる権利を創設し、遺産相続の選択肢の一つとして取得できる。

・ 遺産分割

婚姻期間が20年以上の夫婦であれば、配偶者が居住用の不動産を生前贈与したときは、その不動産を原則として遺産分割の計算対象としてみなさない。

・ 遺言制度

自筆ではなくパソコンなどでも自筆証書遺言の財産目録を作成できる。法務局が自筆証書遺言を保管する制度を創設する。

・ 相続人以外の貢献の考慮

相続人以外の被相続人の親族(相続人の妻など)が被相続人の介護をしていた場合、一定の要件を満たせば相続人に金銭請求できる。

・ 相続の効力

遺言などで法定相続分を超えて相続した不動産は、登記をしなければ第三者に権利を主張できない。