相続分譲渡の手続きで注意することは?

相続分譲渡の内容は?

相続分譲渡とは、相続権を有する人が、自分の相続分を他の相続人や第三者に譲渡することを言います。

相続分とは「各共同相続人が遺産全体の上に持つ包括的持分または相続人の地位」のことをいい、これを譲渡することを相続分の譲渡と言います。

相続分譲渡の「相続分」とは、あくまで遺産分割時における権利割合を指しています。

個々の財産の共有部分を指すわけではありません。

譲渡する相手は、他の相続人でも、まったくの他人でも可能です。

また、全部でなくても、自分の相続分の半分など一部譲渡も可能です。

譲渡人の地位はどうなる?

譲渡人は、相続分譲渡により、遺産に対する持分を有しないことになります。

遺産分割協議は、相続人全員で行う必要がありますが、相続分を譲渡した者は、遺産分割協議に加わる必要がなくなります。

遺産分割調停において、当初は当事者であった相続人が、後に相続分の譲渡を行った場合、当該相続人であったものは当事者適格を失います。

なお、遺産分割協議の後では、相続分が固有の財産権に変化してしまっているので、相続分を譲渡することはできません(相続財産の一部についてのみ遺産分割協議があった場合は、残りの相続分については譲渡可能です。)。

また、譲渡人が相続分を全部譲渡した場合、遺産分割協議に参加する資格を失いますが、相続人として債権者に対して相続債務を免れることができるわけではありません。

譲受人の地位はどうなる?

譲受人は、譲渡人が有していた遺産に対する持分を承継し、遺産分割手続に関与することになります。

前述のとおり、相続分の譲渡は、相続人のほか、第三者に対してもこれを行うことができますが、第三者に対して譲渡された場合には、当該第三者を含めて遺産分割協議を行う必要があります。

つまり、家族でない人が、相続人として相続財産を共有し、遺産分割協議に参加する資格がある(反対に言えば、参加させなければ遺産分割協議が成立しない)ということです。

但し、第三者に対して相続分の譲渡がなされた場合、他の共同相続人は、譲渡のときから1箇月以内であれば、その価額及び費用を償還することによって、その相続分を取り戻すことができます(民法905条1項、2項)。

遺産分割調停の途中で第三者に相続分の譲渡が行われた場合には、相続分の譲受人が調停に参加する必要があるため、当事者参加の申出をして、調停手続に加わることになります

また、譲受人が参加しない場合には、申立てまたは職権により、調停手続きに強制的に参加させることになります。

※ 民法 第905条

(相続分の取戻権)

第905条 共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。

2 前項の権利は、1箇月以内に行使しなければならない。

相続分譲渡のメリットは?

相続分譲渡のメリットは、相続分を譲渡することにより遺産分割協議がスムーズに進むことです。

遺産分割協議は、相続人全員参加が必要です。

特に、相続財産を相続するつもりがない相続人も遺産分割協議がまとまらない場合は、その都度、遺産分割協議がまとまるまで協議に参加しなければいけません。

しかし、相続分を共同相続人に譲渡すれば、譲渡を受けた相続人に相続分が移り、譲渡した相続人は遺産分割協議に参加する必要がなくなりますので、相続人が少数になることにより遺産分割協議が行いやすくなるメリットがあります。

また、相続人が遠隔地にいる場合に、その相続人に相続する意思がない場合は相続分の譲渡をしてしまえば、遺産分割協議が行いやすくなります。

相続分譲渡のデメリットは?

相続分譲渡のデメリットは、相続分を相続人とは関係のない第三者に譲渡した場合には協議が難しくなることです。

相続人以外の第三者の登場は、相続人同士ですらまとまらない遺産分割協議が更にまとまらなくなる可能性があります。

また、相続分の譲渡は譲渡した相続人からすれば相続放棄と同様のイメージがありますが、相続放棄とはまったく別個の制度であり、相続財産に債務があれば相続分を譲渡しても債権者から支払いの請求は当然来ることになります。

相続放棄との違いは、後述していますのでご参照ください。

相続分の譲渡が使われるのは?

前述のとおり、相続分を譲渡した人は、相続問題に巻き込まれない等のメリットがあり、相続分を譲渡された人は、相続権を有するメリットがあります。

相続分譲渡の方法は、遺産を早くもらいたい、遺産相続問題に巻き込まれたくないという場合にとられます。

例えば、兄弟三人が相続の争いをしていて、遺産の中の不動産をどちらが取得するか、長男と次男が争っているとします。

この状況で、不動産について興味のない三男は、早く現金がもらえれば良いので、長男に自分の相続分を売ってしまうというケースなどが考えられます。

相続においては、遺産分割が済むまで、どの遺産を誰がもらうか決まらず、いわゆる共有のような状態になります。

そのため、相続分譲渡は、早く遺産分割の争いより抜けたい人は、相続する権利という抽象的なものを抽象的なまま譲渡することも可能とする制度となっています。

相続分の譲渡は、有償、無償いずれも可能です。

相続分譲渡の手続きは?

相続分譲渡の契約方法は自由です。口頭でも契約をすることが可能です。

但し、後のトラブルを防ぐために、相続分譲渡契約を書面で交わすことが通常です。

相続分譲渡契約を書面で交わす場合、相続分譲渡証書を作成するようにしましょう。

注意点は、以下です。

・ 譲渡人、譲受人の氏名や住所などを記載する(当事者の特定)

・ 誰の相続分を譲渡するかを記載する(被相続人の氏名)

・ どれくらいの相続分を譲渡するかを記載する(全部、一部など)

・ どのような条件で譲渡するかを記載する(無償、有償など)

・ 債務の扱いに関して記載する

など

相続放棄との違いは?

相続放棄との違いは、以下です。

「相続放棄」は、相続すること自体を放棄しますので、相続することはできなくなり一切の財産を取得できませんが、被相続人の負債を負う義務もなくなります。相続放棄を取り消すことはできません。

これに対して、「相続分譲渡」は「相続分」を譲渡するだけですので、相続分譲渡をしても被相続人の借金の債権者から返還請求をされたら応じなければなりません。

したがって、相続に関して一切の権利・義務を放棄したい場合は「相続放棄」を選択し、財産分割争いに巻き込まれず早く財産が欲しい場合は「相続分譲渡」を選択します。

但し、相続分譲渡は、譲渡先の相手がある場合にのみ譲渡ができます。