名義預金について解説! 判断のポイントは?

名義預金とは、形式的には相続人が預金口座の名義人であっても、実質的には被相続人が管理や運用を行っている預金を言います。

相続税の申告や相続税対策をする上で、名義預金をきちんと理解することは重要です。

毎年、「暦年贈与で相続税対策をしていたのに、税務署から名義預金とみなされて相続財産に加えられてしまう」といったケースがあります。

「自分の名義だから今回の相続には関係ない」と軽く考えないほうがいいでしょう。

税務署は名義預金を立証するために預金作成時の状況や入金出金の履歴等を詳細に調べてくるからです。

相続税の税務調査で申告漏れが指摘される中でも預金の申告漏れが一番多いとされています。

現金・預貯金の申告漏れの割合が高いことから、税務調査では名義預金があるかどうかを重点的に調べます。

税務署には強い調査権限があり、被相続人だけでなく相続人の預金口座の過去の入出金も調べることができます。

名義預金であると認定されてしまえば、延滞税や加算税等の本来払わなくてよかったペナルティまで取られてしまいます。

では、現金や預金が名義預金とみなされるのはどういったケースなのでしょうか?

この記事では、どのような場合に名義預金と判断されて相続税が課税されるか、また、名義預金と判断されないためにはどうすればいいのかについて解説します。

この記事で書かれている要点(目次)

  1. 1.名義預金とは?
  2. 2.名義預金になる条件は?
  3. 3.判断のポイントは?
  4. 4.名義預金となり易い特徴は?
  5. 5.名義預金と判断されないために
  6.  5-1.贈与契約書を作成する
  7.  5-2.贈与は普段使用している本人口座へ銀行振り込みする
  8.  5-3.贈与後の財産の管理処分は本人に任せる
  9.  5-4.贈与税の申告と納付をする
  10. 6.まとめ

1.名義預金とは?

形式的には相続人が預金口座の名義人であっても、実質的には被相続人が管理や運用を行っている預金を一般的に「名義預金」と言います。

名義預金と認定されてしまうと、たとえ相続人に贈与していても、被相続人の相続財産に加算されてしまいます。

2.名義預金になる条件は?

預貯金等の帰属に係る判決(平成21年4月16日東京高裁)によると、名義預金について、以下の基準を総合考慮して判断するのが相当であるとしました。

  • 当該財産またはその購入原資の出捐者
  • 当該財産の管理及び運用の状況
  • 当該財産から生じる利益の帰属者
  • 被相続人と当該財産の名義人ならびに当該財産の管理及び運用をする者との関係
  • 当該財産の名義人がその名義を有することになった経緯
  • 贈与の事実の有無

3.判断のポイントは?

名義預金に関して特に重要なのが預金を管理しているのは誰かということです。

預金管理者によってどう判断が変わるのか、事例を元にご説明します。

① 財産をもらう人(相続人)が口座を管理している

贈与であることを相続人も認識しており、財産の管理運用も本人が行っている場合では、名義預金ではなく相続人への贈与と判断される可能性が高くなります。

② 口座を作成後、途中で相続人が通帳を渡された

この場合も贈与となる可能性の高いケ-スです。

実際にあった事例では、途中から相続人が預金を管理していたことや被相続人が出捐者だと特定できなかったことから、裁判所は相続財産とはいえないと判断したことがあります。

③ 被相続人が口座を管理している

相続人が口座の存在自体を知らず贈与である証拠もないような場合には、贈与ではなく名義預金とみなされます。

さらにこのような状況で被相続人が亡くなった場合も同様に名義預金となり、被相続人の財産となります。

4.名義預金となり易い特徴は?

税務署に立証されやすい名義預金の特徴は、以下のとおりです。

  • 被相続人が作成した他人名義の預金
  • 被相続人が管理支配していた預金
  • 預金の原資が被相続人のもの

5.名義預金と判断されないために

被相続人が残した預金が名義預金と判定されないようにするには、生前の準備が重要です。

預金を生前贈与すれば、その預金は被相続人のものではなくなり、相続税の課税対象になりません。

生前贈与では、次の点に注意しましょう。

  • 贈与契約書を作成する
  • 贈与は普段使用している本人口座へ銀行振り込みする
  • 贈与後の財産の管理処分は本人に任せる
  • 贈与税の申告と納付をする

以下、順番に説明します。

5-1.贈与契約書を作成する

贈与は「あげます」「もらいます」という意思の一致で成立する法律行為です。

贈与の成立に必ずしも贈与契約書は必要な要件ではありませんが、実際に名義預金と否認されている事例のほとんどが贈与契約書を作成していないケースです。

「贈与があった」と後から口頭で説明をするだけでは贈与は認められないことが多いです。

民法上、双方の合意があれば口約束でも贈与は成立します。

贈与をするときはそれでもよいのですが、相続税が問題になるのは、贈与した人が亡くなった後のことです。

そのときには贈与した人はいないので、贈与について合意があったかどうか確認のしようがありません。

家族の間でのお金のやり取りで契約書を作ったり銀行振込をしたりするのは、少し大げさかもしれません。

しかし、名義預金と判定されないためには欠かせない証拠になります。

贈与契約書を作成するのは面倒かもしれませんが、贈与の事実をあとから争うよりは簡単で時間もかかりませんので、贈与をしたのであれば贈与契約書は必ず作るようにしましょう。

贈与をする意思と贈与を受ける意思、贈与する財産の内容、贈与する日付、お互いの署名押印があれば大丈夫です。

公証役場で確定日付をもらっておくとなおよいでしょう。

5-2.贈与は普段使用している本人口座へ銀行振り込みする

贈与を受ける本人が普段使っている金融機関の口座へ贈与をしましょう。

贈与するときは、銀行口座を通じて振込をしましょう。

振込手数料がかかりますが、お金のやり取りを客観的に記録できるメリットがあります。

また、贈与専門の通帳をつくることは避けた方がよいでしょう。

自由な処分があることを説明できないだけではなく、本当に贈与したにもかかわらず名義預金であると判断されてしまうリスクが高まってしまいます。

贈与契約書を作成し、普段使っている子供など本人の口座へ親が振込を行い、その後子供が自由に管理支配しているのであれば、贈与があったと主張しやすくなります。

5-3.贈与後の財産の管理処分は本人に任せる

預金の通帳や印鑑は贈与された人が管理するようにしましょう。

子供や孫の無駄遣いが心配で通帳や印鑑を渡さないケースがありますが、それでは贈与したことにはならず、名義預金と判定されてしまいます。

贈与をした財産はもはや自分のものではありませんので、管理処分を贈与した人に任せるのは当然のことですが、実際にはそのまま親が管理していることがあります。

贈与してしまうと無駄に使われてしまうのではないかというご心配はよくわかります。

しかし、誰の印鑑を用いているか、満期時の名義書換をだれが行っていたか等の状況から管理支配者が親であるとされてしまう場合があります。

従って、銀行口座の通帳や印鑑、キャッシュカードは贈与された人が管理しましょう。

また、印鑑は、贈与された人自身のものを使って手続きすることが大切です。

苗字が同じだからといって贈与した人の印鑑を使えば、名義預金ではないかと疑われます。

5-4.贈与税の申告と納付をする

贈与で財産を取得した場合、贈与税の課税対象となります。毎年1月1日から12月31日までに贈与で取得した財産が110万円を超える場合には翌年3月15日までに贈与税の申告と納付が必要となります。

贈与税の申告と納付は贈与を受けた側が行うものですので、財産を贈与で取得した者が贈与税の申告納付を行うことは、すくなくとも受贈者側において贈与を受けた意思があることを表明することができます。

6.まとめ

以上、相続で問題になることが多い名義預金についてお伝えしてきました。

子供や孫のために作った預金や長年こつこつ貯めてきた夫婦の財産も、生前に適切な対策を取っておかなければ、相続税の課税対象になってしまいます。

名義預金は「知らなかった」では済まされません。

さらに意図的に名義預金を作っていた場合には、故意に事実を仮装・隠ぺいしたと判断される可能性もあります。

税務署に指摘されて大ごとになる前に、必ず弁護士、税理士など専門家に相談しましょう。