遺留分の改正 | 尼崎の弁護士
遺留分とは、「一定の範囲内の相続人が最低限保障されている相続分」のことです。
つまり、被相続人の財産のうち、一定の相続人に必ず承継されるべき一定の割合を遺留分といいます。
被相続人は、遺言ないし生前贈与により自由に財産を処分することができるのが原則ですが、それも無制限ではなく、遺留分による制限を受けることになります。
一定の相続人には、ある程度の相続分が保障されている(守られている)ということになります。
相続分の指定、遺贈、贈与によって遺留分を侵害されてしまった相続人は、遺留分を侵害している人に対して、自己の遺留分を請求することができます。
これを「遺留分減殺請求」といいます。
相続法改正の経緯
2018年7月6日、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号)が成立しました(同年7月13日公布)。
相続に関するトラブルを防ぐために、民法では、誰が相続人となり、また、何が遺産にあたり、被相続人の権利義務がどのように受け継がれるかなど、相続の基本的なルールが定められています。
この民法の相続について規定した部分を「相続法」と言います。
民法のうち相続法の分野については、昭和55年以来、実質的に大きな見直しはされてきませんでしたが、その間にも、社会の高齢化が更に進展し、相続開始時における配偶者の年齢も相対的に高齢化しているため、その保護の必要性が高まっていました。
今回の相続法の見直しは、このような社会経済情勢の変化に対応するものであり、残された配偶者の生活に配慮する等の観点から、配偶者の居住の権利を保護するための方策等が盛り込まれています。
このほかにも、遺言の利用を促進し、相続をめぐる紛争を防止する等の観点から、自筆証書遺言の方式を緩和するなど、多岐にわたる改正項目を盛り込んでおります。
以下、改正法のうち、「遺留分制度に関する見直し」について、ポイントを詳しく説明します。
遺留分制度に関する見直し
遺産の内容は、金銭や不動産、投資信託などさまざまなので、遺留分の返還方法を決める場合、計算が複雑になり易いです。
現行法では、例えば、遺留分を侵害する贈与等の対象が不動産の場合、贈与を受けた者と遺留分権利者の共有状態となり、その不動産の処分や利用に大きな制約を受けることとなります。
遺留分減殺請求権が行使されると、不動産であれば、遺留分の割合により遺留分権利者に所有権が戻り、複雑な共有状態になります。
そして、遺留分権利者は、相手方に対してその一部持分の返還しか求めることができず、遺留分侵害額を金銭で支払うよう請求することはできませんでした。
また、現物で返還するか、金銭で弁償するかは相手方にしか選択肢がありませんでした。
そこで、改正法では、遺留分減殺請求権の行使によって当然に物権的効果が生ずるとされている現行法の規律を見直し、遺留分に関する権利の行使によって遺留分侵害額に相当する金銭債権が生ずることになります。
従前、受贈者もしくは受遺者は価額弁償により現物を取り戻されることから免れることができましたが、改正法では、一律に金銭債権化されます。
遺留分の金銭債権化と期限の付与
①遺留分減殺請求権から生ずる権利を金銭債権化します。
②金銭を直ちには準備できない受遺者又は受贈者の利益を図るため、受遺者等の請求により、裁判所が、金銭債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができるようにします。
現行制度の内容及び問題点
現行制度では、遺留分減殺請求権の行使によって共有状態が生じます。
これは、事業承継の支障となっているという指摘があります。
また、遺留分減殺請求権の行使によって生じる共有割合は、目的財産の評価額等を基準に決まるため、通常は、分母・分子とも極めて大きな数字となります。
これは、持分権の処分に支障が出るおそれがあります。
例えば、経営者であった被相続人が、事業を手伝っていた長男に会社の土地建物(評価額1億1123万円)を、長女に預金1234万5678円を相続させる旨の遺言をし、死亡した(配偶者は既に死亡)事例で、遺言の内容に不満な長女が長男に対し、遺留分減殺請求をした場合を考えます。
長女の遺留分侵害額は、
1854万8242円={(1億1123万円+1234万5678円)×1/2×1/2-1234万5678円}
となります。
その結果、現行法では、会社の土地建物が長男と長女の複雑な共有状態になります。
持分割合は、長男が9268万1758/1億1123万、長女が1854万8242/1億1123万になります。
法改正のメリット
今回の法改正では、遺留分を侵害された者は、遺贈や贈与を受けた者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の請求をすることができるようになります。
遺贈や贈与を受けた者が金銭を直ちに準備することができない場合には、裁判所に対し、支払期限の猶予を求めることができます。
これにより、遺留分減殺請求権の行使により共有関係が当然に生ずることを回避することができます。
遺贈や贈与の目的財産を受遺者等に与えたいという遺言者の意思を尊重することができます。
上記の事例では、遺留分減殺請求によって生ずる権利は金銭債権となります。
長女は長男に対し、1854万8242円請求できます。
改正民法の条文
※ 改正民法第1046条
(遺留分侵害額の請求)
第千四十六条
遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
2 遺留分侵害額は、第千四十二条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。
一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第九百三条第一項に規定する贈与の価額
二 第九百条から第九百二条まで、第九百三条及び第九百四条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額
三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第八百九十九条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額
生前贈与について持ち戻す期間を相続開始前の10年間に限定
現行法では、「贈与は、相続開始前の1年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。」と規定されています。
そして、最高裁平成10年3月24日判決は、相続人に対する贈与は相続開始よりも相当以前にされたものであって、その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化を考慮するとき、減殺請求を認めることが相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り遺留分減殺の対象となるとしました。
従って、現行制度では、相続人に対する特別受益に該当する贈与は、相続開始の何年も前になされたものであっても、基本的に、遺留分額算定の基礎となる財産に算入されます。
これに対し、改正法では、相続人に対する贈与は、相続開始前の10年間にされたものに限り遺留分の基礎財産に含めることとなります。
これにより、相続人に対し、相続開始より10年以上前に贈与された財産は、遺留分を算定するための財産の価額に含まれないことになります。
改正民法の条文
※ 改正民法1043条
(遺留分を算定するための財産の価額)
第千四十三条
遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。
2(略)
※ 改正民法第1044条
第千四十四条
贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。
2 第九百四条の規定は、前項に規定する贈与の価額について準用する。
3 相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。
いつから施行されるの?
相続法改正のうち、配偶者居住権及び配偶者短期居住権の新設等は、2020年4月1日です。
その他、民法(相続関係)改正法の施行期日は、以下です。
改正法の規定は、以下のとおり、段階的に施行されることとされています。
他方、遺言書保管法の施行期日は、施行期日を定める政令において2020年7月10日と定められました。
①自筆証書遺言の方式を緩和する方策
2019年1月13日
②原則的な施行期日
(遺産分割前の預貯金の払戻し制度、遺留分制度の見直し、相続の効力等に関する見直し、特別の寄与等の①③以外の規定)
2019年7月1日
③配偶者居住権及び配偶者短期居住権の新設等
2020年4月1日
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