私は病気で寝たきりの父親を、10年間、ほとんど毎日のように父の家に通って、掃除、洗濯、食事の準備などをして療養看護に努めてきました。他の兄弟たちは、遠方に住んでいたため父の面倒は全く看ていなかったのですが、父が亡くなると、法定相続分どおりの分割を主張してきました。遺産分割にあたって、私の長年にわたる療養看護は考慮されないのでしょうか。

民法は、相続人の中に、亡くなった人(被相続人)の生前における財産の維持や増加に特別に貢献をした者がある場合には、その相続人は遺産分割にあたって法定相続分を超える遺産を取得することができると定めています(904条の2第1項)。

これを「寄与分」といいます。

寄与分が認められるためには、まず、その相続人の貢献によって「被相続人の財産の維持または増加」という結果が生じたことが必要です。

本問のような療養看護の場合、本来ならば付添婦を雇う必要があったのに、子や孫などの看護によって付添婦を雇わずにすみ、付添料の支払をせずにすんだというような場合です。

また、寄与分が認められるためには、財産の維持増加に「特別の寄与」があったことが必要です。

夫婦間の協力義務や親族間の扶養義務などの法律上当然の義務を尽くしただけでは寄与としては認められません。

それ以上の特別の貢献が必要になります。

本問の場合、療養看護の程度によっては子の父親に対する通常の扶養義務を超えた特別の貢献があったとして寄与分が認められる可能性があると考えます。

判例では、重い老人性痴呆の母(被相続人)を10年にわたって看護した四女に、付添婦の費用に相当する1100万円余りの寄与分が認められた事例があります。

なお、寄与分については、原則として相続人間の協議で定めるものとされています(民法904条の2第1項)。

協議が調わないときや協議をすることができないときは、家庭裁判所に申立をしてその額を定めてもらうことになります(同条2項)。

家庭裁判所は、寄与の時期、方法、程度や相続財産の額などの事情を総合的に考慮して寄与分の額を定めるものとされています。

療養看護の場合、その寄与行為によって維持された財産の額がおおむね寄与分の額と認められる場合が多いと思いますが、相続財産に対する割合で寄与分が示されることもあります。