持戻し免除の推定規定の要件と効果 | 尼崎の弁護士

2018年7月6日、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号)が成立しました(同年7月13日公布)。

改正法では、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたとき、持戻し免除の意思表示があったものと推定します。

この「持戻しの免除の意思表示」をしたものと推定するとの規定が新たに設けられます(改正民法903条4項)。

婚姻期間20年以上の夫婦の一方である被相続人が他の一方に居住用不動産を贈与又は遺贈したときは、その不動産は遺産分割の対象とならなくなります。

これにより20年以上の長期間婚姻していた夫婦間において居住用不動産の遺贈等があった場合、持ち戻しが免除される結果、配偶者はその後の相続においてもこれまで以上の相続分を確保することが可能となります。

 

要件

改正民法903条4項では、

「婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。」

と規定されます。

従って、持戻し免除の意思表示の推定規定の要件は、

① 婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し
② その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたこと

です。

婚姻期間が20年以上とされています。

相続税法21条の6で、婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産又は居住用不動産を取得するため金銭の贈与があった場合に、贈与税の基礎控除110万円のほかに、2000万円までの控除を受けることができる制度があります(贈与税の配偶者控除制度)。

そこで、これと合わせる形で、婚姻期間が20年以上に規定したと考えられています。

なお、婚姻期間が20年以上である配偶者に該当するか否かの判定は、贈与の時で判断すると考えられています(相続税法施行令4条の6)。

 

効果

改正民法903条4項では、

「婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。」

と規定されます。

従って、持戻し免除の意思表示の推定規定の効果は、

被相続人は、その遺贈又は贈与について持戻し免除の意思を表示したものと推定する

です。

「推定する」とは、立証責任が転換されることです。

裁判では、事実を裁判官が認定する際に、証拠に基づいて認定をします。

その際、請求している側と請求される側のどちらがその事実を証明しなくてはいけないのかが決まっています。

そして、立証できない場合には、その事実はないものとして扱われ、その事実がある場合の法律効果の発生または不発生により当事者の一方が不利益を受けることになります。

これを立証責任と言います。

つまり、持戻し免除の意思表示に関しては、

本来、持戻しの免除の意思表示があると言いたい人が立証責任を負っているのですが、

これが推定規定の効果により、持戻し免除の意思表示がないと言いたい人に転換されます。

具体例で考えてみましょう

例えば、相続人が妻及び子2人(長男と長女)、遺産が居住用不動産(持分2分の1、評価額2,000万円)及びその他の財産(6,000万円)で、配偶者に対する贈与が居住用不動産(持分2分の1、評価額2,000万円)だった場合を考えます。

持戻し免除の意思表示がない場合

配偶者の取り分を計算する時には、生前贈与(評価額2,000万円)についても、相続財産とみなされるため、

(8,000万円+2,000万円)×2分の1-2,000万円=3,000万円

となります。

最終的な取得額は、3,000万円+2,000万円(生前贈与)=5,000万円となります。

持戻し免除の意思表示がある場合

生前贈与分(評価額2,000万円)について相続財産とみなす必要がなくなる結果、配偶者の遺産分割における取得額は、

8,000万×2分の1=4,000万円となります。

最終的な取得額は、

4,000万+2,000万(生前贈与)=6,000万円となります。

贈与がなかったとした場合に行う遺産分割より多くの財産を最終的に取得できることとなります。

推定規定の効果

持戻し免除の意思表示の推定規定の効果により、本来は、持戻し免除の意思表示があると言いたい人、上記で配偶者が、立証の責任を負っているのですが、この立証責任が配偶者から長男や長女に移ります。

この点、単に立証責任が転換されただけなので、長男や長女が被相続人にはそのような持戻免除の意思表示はなかったということを証明できれば、持戻免除の意思表示はないものとして裁判所が認定します。

但し、居住用不動産を贈与している際に、このような免除の意思表示がなかったということを立証するのはかなり困難なため、よほどの特殊な事情がない限りは、推定が覆ることはないでしょう。

 

改正民法の条文

※ 改正民法第903条

(特別受益者の相続分)

第九百三条

共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

2(略)

3 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。

4 婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。

 

いつから施行されるの?

相続法改正のうち、配偶者居住権及び配偶者短期居住権の新設等は、2020年4月1日です。

その他、民法(相続関係)改正法の施行期日は、以下です。

改正法の規定は、以下のとおり、段階的に施行されることとされています。

他方、遺言書保管法の施行期日は、施行期日を定める政令において2020年7月10日と定められました。

①自筆証書遺言の方式を緩和する方策

2019年1月13日

②原則的な施行期日

(遺産分割前の預貯金の払戻し制度、遺留分制度の見直し、相続の効力等に関する見直し、特別の寄与等の①③以外の規定)

2019年7月1日

③配偶者居住権及び配偶者短期居住権の新設等

2020年4月1日

 

持戻し免除は弁護士法人アルテにお任せください! 阪神尼崎駅すぐ

遺産相続問題の中で、トラブルになる可能性が高いのが特別受益、持戻し免除の問題です。

特別受益、持戻し免除の計算は、その算定や財産評価が非常に難しく、専門的知識を要する弁護士でなければ、正確に行うことが難しいと思われます。

弁護士法人アルテでは、相続に力を入れており、このような遺産相続問題で悩みや不安を抱えられているお客様の負担が少しでも和らぐよう、お手伝いをさせていただきます。

弁護士が、適切な解決方法をアドバイスします。

当社は、税理士、司法書士、不動産鑑定士、不動産会社等と連携しており、当社が窓口となることで、法律問題のみならず、税務問題、相続登記まで含めた問題を一括して解決することができます。

遺産相続、持戻し免除等でご不安がある場合は、是非、お気軽にご相談下さい。